公認会計士試験を撤退し、ベンチャー企業のコーポレート職へ。実務未経験でも「会計知識」が武器になった転職体験談
「早く社会に出たい」という気持ちの変化
短答式合格後、論文式に1度挑戦したRさん(25歳)は、同じペースで学習を続けることに気持ちが向かなくなり、 次の受験サイクルに入る前に撤退を決めた。「合格の可能性がゼロになったわけではなかったが、この生活を あと1〜2年続けるより、早く社会に出て実務経験を積みたいという気持ちの方が強くなった」という。
撤退を決めた時点で、実務経験はゼロ。資格も手元にない。「経理としても、コンサルとしても、 即戦力として評価される材料は何もなかった」と当時を振り返る。
大手 vs 少人数企業――「実務未経験の壁」はどこで消えるのか
転職活動を始めて最初にぶつかったのは、いわゆる大手企業・上場企業の経理職求人の多くが 「実務経験○年以上」を応募条件にしている現実だった。公認会計士試験の学習経験だけでは、 書類選考の時点で弾かれることが続いたという。
流れが変わったのは、従業員20〜30名規模のベンチャー・スタートアップ企業に応募範囲を広げてからだった。
「大手だと『経理の実務経験』が問われるが、少人数の会社は専任の経理担当がそもそもいないケースが 多い。そこでは『実務経験』よりも『簿記・税務・会社法まわりの基礎知識がある人材』自体が貴重で、 会計士試験の学習内容がそのまま評価対象になった」
実際、スタートアップのコーポレート職(経理・労務・法務・契約管理などバックオフィス業務全般を 指すことが多い)の求人は、大手の経理求人と違って「未経験可」「ポテンシャル採用」の枠が多い。 一方で、簿記の知識だけでなく税法や会社法の知識、スプレッドシートや会計システムを扱うITスキル、 専任担当者がいない環境で自ら動く主体性が求められる点は、大手の経理職とは異なる部分だった。
選考で実際に評価されたこと
書類選考・面接でRさんが伝えたのは、「公認会計士試験合格」という結果ではなく、 学習してきた範囲と、それが実務でどう使えるかだった。
- 簿記・財務会計だけでなく、監査論・会社法・税法まで体系的に学習してきたこと
- 独学ではなく、答練・模試で継続的に成果を検証しながら学習してきたこと
- 決算書の数字を見て、その意味を説明できること
「『資格がないので即戦力にはなれません』ではなく、『経理の実務経験はまだありませんが、 決算書の仕組みと税務・会社法の基礎は説明できます』という伝え方に変えてから、手応えが変わった」 という。実務経験という土俵で戦うのではなく、知識の体系性という土俵で評価してもらう伝え方が ポイントだったと振り返る。
現在の仕事
現在は従業員20名規模のベンチャー企業で、経理・労務・契約管理などコーポレート業務全般を担当している。 専任の担当者がいない環境のため、月次の記帳・請求書処理から、社会保険手続き、契約書のリーガル チェックまで、幅広い業務を一人でカバーする場面が多い。
「大手企業であれば経理・労務・法務がそれぞれ別部署に分かれているような業務を、まとめて担当している。 専任者がいない分、任される範囲は広いが、その分裁量も大きい」
受験経験がどう活きているか
会計・法律まわりの基礎知識があることで、業務の意味を理解した上で対応できる場面が多いという。
「簿記の手続きだけを覚えているのと、なぜその処理をするのかを会計基準・税法のレベルで理解しているのとでは、 イレギュラーな取引が出てきたときの対応スピードがまったく違う。会計士試験の学習は、まさにそこを 鍛えられていたのだと、実務に出てから気づいた」
撤退後、ベンチャー・スタートアップのコーポレート職を考えている人へ
Rさんの経験から見えてきた、実務未経験のまま少人数企業のコーポレート職を目指す場合のポイントを整理する。
- 応募範囲を「大手の経理求人」に絞らない: 大手は実務経験が問われやすいが、 少人数企業は「未経験可」「ポテンシャル採用」の枠が相対的に多い
- 「資格」ではなく「学習範囲」を伝える: 論文式に届いていなくても、 簿記・財務会計・税法・会社法をどこまで体系的に学習したかは、具体的に説明できる材料になる
- 簿記2級等、実務との接続を示す資格を補う選択肢もある: 会計士試験の学習内容と重なる部分が多く、 実務未経験を補う材料として使われることが多い
- 裁量の大きさと引き換えに、業務範囲が広く属人化しやすい環境であることも理解しておく: 専任担当者がいない分、経理以外の業務も任されやすい
続けるか撤退するかでまだ迷っている場合は、「はじめての方へ」ページで 判断の整理をしてから、この記事のような選択肢を検討してみてほしい。
今、迷っている人へ
「大手を目指すと実務未経験が壁になりやすいが、人数の少ない会社では会計知識そのものが 強みになる場面が多かった。選択肢は自分が思っていたより広かった」
- 受験期間
- 受験専念2年(短答式合格後、論文式1回受験)
- 撤退時期
- 論文式1回目不合格後、次の受験サイクルに入る前のタイミング
- 現在の仕事
- 従業員20名規模のベンチャー企業でコーポレート業務全般(経理・労務・契約管理等)を担当
※個人が特定されないよう、複数の相談事例をもとに再構成しています。